« Nov. 18, 2005 | Main | Nov. 20, 2005 »

November 19, 2005

Nov. 19, 2005

11月19日付け朝日新聞文化欄(他地方では別の日付かも知れません)に、広島大学の河原俊雄氏による、「欧州オペラ界 広がる過激な演出」という評論が出ています。非常にラフに言うと、オペラは言うまでもなく舞台芸術なので、演出が必要不可欠なのですが、昔は音楽、歌が主であって演出はあくまでも引き立て役で、従だったのです。ところが、最近では演出の占める割合が増えてきて、主であったはずの音楽にまで「口をはさむ」ようになったということです。

まず事情を簡単に説明します。以前から、時代設定を現代に「してしまう」演出がありました。たとえばヴァーグナーの扱う北欧神話の神様がスーツ姿で登場したり、現代のその辺のアパートの部屋に住んでいたりするのです。これはかつて「ロミオとジュリエット」を「ウエストサイド・ストーリー」に焼き直したのとは根本的に違うと思います。「ウエストサイド」の場合、「ロミオ」が時代普遍的な内容であったことに着目して、「すべて」を作り直しています。ところが、音楽は基本的に同じであって、演出だけを現代にもってくるというのは、例外もありますが私は無理があると思っています。これらの先駆けとなった演出で、センセーショナルになったものは、私の知る限り70年代にバイロイトのヴァーグナー音楽祭でパトリス・シェローが演出した「リング」だったのではないかと思います(指揮はブレーズ)。森の小鳥が、鳥カゴの中に入って登場したり、岩山がマッターホルンだったりと当時賛否両論話題になりました。しかし今から見ると、この演出は優れたものだったのではないかと思います。神話のもつ抽象性がゆるす演出だったということでしょう。その意味で「マイスタージンガー」をこの流儀で演出するのは難しいと思います。

さて、私は決して昔ながらの具象的な衣装・装置で演出せよと言っているのではないのですが、このような時代を変える演出は基本的にあまり好きではありません。しかし、百歩譲ればまあ我慢できます。ところが、最近さらに「症状」は進んでいる、というのが河原俊雄氏の報告です。演出の「新解釈」(珍解釈?)のために、当然のように音楽の表情と演出が合わなくなってくるのです。例えば、ハッピーエンドのつもりで作曲者が書いた音楽が、ハッピーエンドは実は夢で、実は悲しい結末だったのだと演出が代われば、悲しい結末に楽しい音楽が合わなくなるのは当然です。そこで、音符までは変えられないので、演奏の表情付け、テンポを変えるというのです。

たとえば、「ラ・トラビアータ(椿姫)」で、最後の場面、結核で死の床のヴィオレッタのもとに、アルフレードが駆けつけて、その胸に抱かれながら死ぬ、というのが元々の設定で、作曲者ヴェルディもそれを疑ったことはなかったはずですが、それをすべては死の床にあったヴィオレッタの「夢」であって、実際には誰も来ず、寂しく死んでいった、というような演出があるとどこかで聞いたことがあります。「トリスタンとイゾルデ」でも同様に、死の床のトリスタンのもとにイゾルデが駆けつけたのは、熱に浮かされたトリスタンの「夢」で、実際は来なかった、という演出があるようです。完全なハッピーエンドではないですが、死の床の主人公のところに、もう一人(異性の)主人公が駆けつけ、「間に合う」というのは見ているものに「よかった!」と思わせるものです。当然音楽もそのように書いてある(ついでに言えば作曲者自身の書いた、スコア上のト書きも)。それを変える演出はやはりルール違反をしていると思わずにいられません。

私は声を大きくして言いたい。邪道だと。作曲者が考えたこともない、ト書きはもちろん筋書きまで変える演出は別のところでやって下さい。

|

Comments

はじめまして。コメント&トラックバックありがとうございました。

シェローが映画監督をしていることは知っていたのですが、残念ながらまだ見たことがありません。やはり一度見なければいけないと思っています。

私はシェローのリング演出は今となってはほとんど違和感を感じません。森の小鳥が籠に入っているくらいで驚いていたら、今日オペラハウスには行けませんね。

Posted by: Zikade(家主) | January 26, 2006 at 01:54 PM

こんにちは。キーワード、シェローで着ました。

上の意見も概ね分かるのですが、バイロイトの夢のシーンなどは比較的成功したような例でしょう。

ある意味、末期的な症状と言うのが私見です。その点、最近はヴィジュアル表現としての舞台が一般的となって、演出家よりも映画監督が舞台の主役になって来たようです。

Posted by: pfaelzerwein | January 26, 2006 at 12:42 AM

Post a comment