伝統文化
韓国ソウル市の南大門が焼失しました。自然災害ではないので、いっそう残念に思えてなりません。韓国の国宝というだけではなく、東洋の、世界の宝が失われたことは悲しいことです。資金さえ調達できれば再建は可能かも知れませんが、それは南大門であり南大門ではないのです。
昨日、輪島塗の伝統の継承の危機についてテレビで知りました。漆を塗る際に極細の面相筆を使うそうですが、線を引くときにかすれずに引くことができるのはクマネズミの特殊な毛を使った筆が不可欠で、自然状態でネズミが生息する環境が失われたため、現在この筆を作ることができないそうです。合成繊維メーカーが代用品の開発にとりかかっているそうですが、適量の漆を穂先の上部に蓄え、しかも先端で極細の線を引くという要求を満たすものは最先端技術をもってしても再現できず、すでに十年以上の時間と、多額の開発費を使っているものの、未だに完成の見込みすらたたない状態だそうです。輪島塗にはさらに塗り物の表面を研磨するための特殊な炭、漆の中のゴミを濾過する和紙が必要で、それぞれ伝統工芸や職人芸に依存しているそうです。
つまり一つの伝統が他の伝統の上に成り立っているわけで、一つの技術の伝承が途絶えた途端に、その上に成立している技術も途絶えることになるわけです。昔と異り、これらの技術者に弟子入りする人は少なく、世襲させようにも子供たちは高い技術が必要であるにもかかわらず収入の面でも、そして将来的な面でも不安定な仕事を選ぼうとしないため、‘絶滅危惧’になっていることが多いとのことです。
伝統の継承ということで思い出すのは伊勢神宮ですが、古来続いている神宮式年遷宮にしても、御料木になる桧を伐採する方法ですら決まっていて、斧で伐ればよいというわけではないわけで、斧で木を伐るということすら少なくなった現在、伝統の継承はここでも次第に難しくなってきていることは間違いなさそうです。
考えてみれば、人類の歴史の上ですでに失われてきた技術は少なくないわけですが、やはり現在残っている技術はできる限り残って欲しいと考えるのは単なるノスタルジーなのでしょうか。私は最近、伝統文化どころか、人類そのものの種の継承が危ういのではないかと考えはじめています。

Comments
コメント有り難うございました。
> Ohrwurmさん
伝統の継承と、種の存続は実は相似形なのだと思っています。逆に言えば、伝統の消滅と種の絶滅は相似形ということです。
>JGさん
たしかに漆器などを使う側の意識の変化もありますが、旅館や料亭、本物指向の消費者はある程度以上は減らないでしょう。しかし、作ろうにも作れないとなると事は重大だと思うのです。
>tsushimaさん
御心配をおかけしました。ネタ切れだったことと、やや忙しいことが原因でさぼっていました。
御指摘のとおり、クマネズミは都会に多く生息しているのですが、コンクリート・ジャングルに棲んでいる個体は毛が擦れて摩耗してしまっていて使い物にならないと番組で紹介していました。
李氏朝鮮王朝時代にも王宮をはじめ建築物はたくさん造られたので、大丈夫ではないでしょうか。いずれにせよ、再建は再建で、それ以上でも以下でもないわけです。
Posted by: Zikade(家主) | February 13, 2008 at 11:43 AM
Zikadeさん、ここの更新がしばらくなかったので具合でも悪いのかと心配していました。クマネズミはビル等に蔓延り電線をかじる被害が多いと聞いていますが、そのような個体の毛は使えないのでしょうか。ソウル市の南大門の修復ですが、普通の建築と違って宮大工の技術が必要なのではないかと思います。韓国には日本のような宮大工はいるのでしょうか。日本には578年から続いている金剛組(一時消滅の危機がありました)のような宮大工集団がありますが、李氏朝鮮は仏教を迫害したので宮大工はほとんどいないのではないかと思います。適切な木材を揃える事からして大変なことだと思います。
Posted by: tsushima | February 13, 2008 at 12:31 AM
私も過日、漆文化の危機という別の話を聞きました。
漆塗りの刷毛は、従来から人の髪の毛で作られるそうですが、女性でも長い髪にする人は少なく、さらにパーマをかけたり染めたりするので、刷毛にできる髪の人が少なくなりました。
また、たとえ材料が揃っても、日本では専用刷毛を作れる職人が数えるしかいないそうです。
私の所感ですが、今や身近なところで漆塗りの食器や家具に接する機会がなくなり、漆製品の良さが理解できない人間が多くなったことが、漆文化の衰退に追い打ちをかけていると思います。
Posted by: JG | February 12, 2008 at 09:31 PM
Zikadeさん、こんにちは。
人類そのものが、すでに絶滅の方向に向かっているというのは、ぼくも実感しています。産業革命以降、表面的には発展しているように見えますが、内面は逆ではないかと思っています。自然の束縛から解放されたことが、絶滅への最初の一歩になったと思います。
Posted by: Ohrwurm | February 12, 2008 at 08:16 PM