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March 25, 2008

ミトコンドリアが進化を決めた

「ミトコンドリアが進化を決めた」(ニック・レーン 著, 斉藤 隆央 訳 みすず書房、 ISBN: 9784622073406 (4622073404) )を読みました。一般向けとはいえかなり専門的な本で、2月の初めから読み始めて今までかかってしまったのは、もともと読むのが遅い上におもに就寝前に読んでいて、眠くなる前に5ページとかからなかったせいです。これは退屈という意味ではなく、難しいということです。全体を通して平均五割程度の理解度ではないでしょうか。

地球上に生命が誕生して40億年といわれますが、細菌とは異って細胞内に核とミトコンドリアという機関を備えた真核生物が誕生したのは約20億年前。その後われわれを含む動植物−多細胞生物に繋がる進化はこの時点から爆発的に始まり、一方で細胞内にミトコンドリアを備えたことのないままの細菌は大きさなど基本的な姿は20億年前以前の姿のままなのは何故なのか。

外部から細胞膜を通してエネルギーを得る必要がある細菌類は、体積が2倍になると必要なエネルギーは倍になるのに、表面積は2倍にはならず2の2/3乗にしかならないことから、体積を増やそうとするとエネルギーが不足することになるのに対して、エネルギーを生み出す機関であるミトコンドリアを内包した真核生物はこの呪縛を解き放つことができたこと、またいかに速く分裂して仲間を増やすかが勝負の細菌は体を大きく、複雑にすることが不利になることなどが述べられています。

つまり原細菌といわれる生物が、当時の地球環境に応じて利害の一致した細菌であったミトコンドリアを細胞内に同居させた、たった一度の偶然が現在の地球上の生物への進化の転機になったということです。さらに性の問題(なぜ性が必要で、それも基本的に2つなのか)や老化の問題などにミトコンドリアが深くかかわっていることがごく最近の研究結果をもとに説得力をもって語られるのは、最先端の研究を紹介されているという満足感を与えてくれます。

全体を通して、この本では細胞内におけるミトコンドリアの働き、一言で言うと呼吸(内呼吸)の理解がベースになっています。「呼吸」を鼻から肺に到る、吸ったり吐いたりという横隔膜の運動を伴う、空気を取り込む動作のこと(外呼吸ともいう)だと思っていると、理解できないわけです(かつて高校の時に呼吸=外呼吸と思い込んでいた私はこれでしばらく悩んだことを思い出しました)。

さて、この呼吸時のエネルギーを産み出す過程(化学的反応)において、その過程に何らかの滞留が起こると、不安定で化合力の強いフリーラジカルと呼ばれる分子、原子(イオン化されていると考えてよいのだろう)が発生して、これがさまざまな働きをする(多くはダメージ。しかし細胞核にミトコンドリア内のトラブルを知らせる働きもするらしい)こと、そしてこれを防ぐために温血性も生まれ、性の分化、老化のキーになっていることが解説されます。

なお、著者ははっきりとは述べていませんが、地球外生物について、細菌のレベルの生命の存在は確実視しているものの、真核生物以上のいわゆる高等生物の存在には否定的に思えました。

ところで、この本の中で「温度が10℃上がるごとに、代謝率は2倍になる」という記述がありました。(低温で死なない範囲の)低い気温でセミが長生きするという報告がありますが、これで合点がいきます。また、トカゲに毛皮を着せる実験について、「体が温まるどころか、逆効果だった」と書いてあります。つまり、断熱効果は熱が逃げるのを防ぐだけではなく、入るのも防ぐためだということですが、我々は自分たちが温血性であるがゆえ、毛皮=暖かいという思い込みがあるのではないかと感じました。10月から11月に出現するチョウセンケナガニイニイが毛深いのは、日光浴をして一度体に熱を取り込むことを前提としているということなのでしょうか。

難しい本ですが、生物好きの私には非常に興味深い本でした。すべての人にとは言いませんが、強く御薦めします。

(3月26日追記)

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