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July 21, 2008

17年と13年だけ大発生?素数ゼミの秘密に迫る!

☆今後しばらく書き足したり、書き直したりする予定です。興味のある方はしばらくたったら再度御訪問下さい。
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Yoshimura

吉村 仁氏の「17年と13年だけ大発生?素数ゼミの秘密に迫る!」(サイエンス・アイ新書/ソフトバンク・クリエイティブ)が送られてきましたので、さっそく読んでみました。内容は、

プロローグ:セミの大発生に街は大騒ぎ!
第1章:日本のセミと素数ゼミの違い
第2章:素数ゼミの秘密に迫る!
第3章:素数ゼミを追って!
第4章:素数ゼミの謎はどこまで明らかになったか
第5章:進化の歴史とムシの多様性
第6章:メスの「オス選び」と種分化の歴史
第7章:素数ゼミの秘密はどうして解けたのか

となっています。素数ゼミというのは吉村氏の造語(というと悪いニュアンスがありますが)で、通常は周期ゼミと呼ばれる米国にいるセミのことで、詳しくは私の解説ページをご覧下さい。

やはり読みごたえのあるのは第2章から第4章で、とくに第3章は採集記とでもいうようなもので、初めて周期ゼミの大発生を前にした著者の感激が伝わってきます。第4章では米国の研究者の考えも紹介され、周期ゼミの系統分類や遺伝子浸透仮説が解説されています。周期ゼミの周期性への進化のしくみについての理論は上にリンクした私のページにもある、氏の論文や前著「素数ゼミの謎」(文藝春秋社)と基本的には変わりませんが、さらに様々な状況証拠から証拠固めをした、という感じでしょうか。前著はどちらかと言うと子供向けでしたが、この本は大人向けです。

第5章では北米やヨーロッパでは、日本に比べて昆虫の種数/面積が著しく低い理由や日本のツヅレサセコオロギの種分化の仮説が解説されます。第6章ではメスの「オス選び」が種分化にとって大切なポイントになっているだろうということが解説されています。

この本で扱われていることの多くは長い歴史的な進化のしくみにかかわることなので、証明できないわけですが、氏の理論は非常に説得力のあるものだと思いますし、これは仮説だということを明示してある姿勢はどこぞの本とは大違いです。しかし敢て苦言を呈すると、周期ゼミ以外の記述、特に日本のセミについての記述に納得できないものが多いのも事実です。

マツムシの説明にアオマツムシの写真が載っていたり、「ハルゼミの仲間は日本に3種」などと言うのは御愛嬌としても(ハルゼミ属は2種。ヒメハルゼミ属を含めても4種)、ハルゼミの仲間は「春の風や雑音にまぎれ」、「鳴いていてもほとんど気づかない」、「どれも地味な鳴き声」というのは、いささか首を傾げるところです。ハルゼミ類、ヒメハルゼミ類が知られていないのは、生息環境が特殊(いや、アブラゼミ、ミンミンゼミやクマゼミのように都会の真ん中で鳴く方がよほど特殊なのかもしれませんが)だからで、決して鳴き声が地味だとは思いません。それどころかエゾハルゼミの鳴き声は日本産のセミの中でも最もエキセントリックなものだと思います。個人的印象・感覚の問題かもしれませんが。

第5章では米国のセミが日本のセミと比較して単調な鳴き声をしている理由を考察していて、同所的に生息するセミの種数が少ない米国では鳴き声が単調になり、種数が多い日本では他種との鳴き分けが必要なので複雑になるという論法で、その最たる例としてツクツクボウシを挙げています。しかしそもそもツクツクボウシは日本固有種ではないのですし、種数の多い日本でもエゾゼミ類(全5種)、ニイニイゼミ類(5種+ケナガニイニイ属1種)、チッチゼミ類(全2種)、スジアカクマゼミなどは単調です。他種と同所的に生息することの多いアブラゼミ、クマゼミにしても複雑な鳴き声だとはいえません。台湾では50種を越えるセミがいますが、ツクツクボウシを越える複雑な鳴き声のセミはいません。そもそも私はツクツクボウシは突出して複雑な鳴き声で、ここまで複雑になる理由は単に他種との競合だけで論じられるものなのかなと思っています。いずれにせよ、氏のおっしゃる理屈はよくわかりますし、説得力もあるのですが、少々現実とのギャップを感じます。

かつて私はエゾゼミとキュウシュウエゾゼミにそれぞれの鳴き声の録音を聞かせたことがありますが、かれらは見事に聞き分けていました(同種の鳴き声を聞くと鳴き出す)。人には単調に聞こえる鳴き声でも、彼らは自分の鳴き声の中に聞き分ける仕掛けを仕込んでいることが最近分かっているのです。

もう一点、第1章ではクマゼミが地域で鳴き声が異るということが述べられていますが、これは全くの誤認だと言わざるを得ません。八重山諸島から本州産まで全く違いは見出せません。周波数分析を行っても大きな違いは見られません。いわゆるオノマトぺの違いと実際の鳴き声の違いを混同されているのでしょうか。

このように問題も感じますが、周期ゼミの話を中心にして全体の大きな流れは非常に興味深く、いろいろと示唆に富む内容で、一読する価値は十分あると思います。問題点を書いた文章が非常に長くなりましたが、決して本書が問題点ばかりということではありません。おすすめの一冊です。

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周期ゼミ相互、あるいは他種(チッチゼミ属)との関係をDNAによって探ることが述べられていますが、セミに限らず分類学では形態(たとえば生殖器)の比較を用いた分類、もしくはDNA分析との併用が重要だと言われています。この本ではそのような形態からの比較については全く触れられていませんが、どのようになっているのかな、と思いました。

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Comments

青山 潤三氏の「セミの歌ゼミ」ですね。毎週楽しみにしています。

Posted by: Zikade(家主) | July 22, 2008 at 02:44 PM

そういえば、朝日新聞の日曜版だったかな、セミの話が連載されていますね。鳴き声に絡んだ話です。一昨日はアブラゼミだったかな。

Posted by: Cello | July 22, 2008 at 11:31 AM

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