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July 11, 2008

蝉時雨

「蝉しぐれ」というと、藤沢周平の時代小説です。原作を読んだことはありませんが、NHKで映像化されましたし、映画にもなりましたのでご覧になった方も多いでしょう。個人的にはNHKの方が配役を含めてよかったと思っています。あの話では無実の罪で死罪になった父親の遺体を引き渡された主人公が、遺体を載せた手押し車を一人でひき、林の中の上り坂にさしかかって、車を引っぱり上げることができず惨めな気持ちになる場面で、蝉時雨がその心象を表現するモチーフとして効果的に使われていたようです。前に外国人からメールで、この映画について聞かれたことがあって、その時の返信を元にして下手な英語で書いたページがこちらにありますので、よろしければご覧下さい。

今から20年ほど前までは東京の実家でも夏には隣家の木々で多数のアブラゼミが大合唱をし、窓を大きく開けてその鳴き声を聞きながら昼寝するのが何とも気持ちが良かったものです。しかし、熊本に住むようになって、「本当の」蝉時雨は規模が全く違うことを知ったのです。山全体が鳴り響く様子を想像してみて下さい。何も大袈裟なことを言っているのではないのです。文字通り山全体が一斉に鳴るのです。

その鳴き声の主はヒメハルゼミというセミ。細い華奢な感じの小さ目のセミですし、個別の鳴き声はやや濁った声でヴィーン・ヴィーン・・・と抑揚をつけて鳴き、決して美声ではないのですが、一匹が鳴き始めるとそれにつられて全体のセミが唱和する性質があるので、静まり返っていた山が突然シャーーーというウェーブに飲み込まれ、数分すると鳴きやんで何事もなかったかのように元の静けさに戻るという鳴き方をします。知らない方は「何事が起こった?」と思うでしょう。アブラゼミやミンミンゼミなどのように一日中鳴いていれば、セミがいることが分かるのですが、ヒメハルゼミの場合は初めて聞いた方はセミとは思わないかもしれません。昼過ぎから間欠的に合唱するのですが、日没後まだ明かりが残っている黄昏に、20〜30分ほど全山のセミが大合唱するさまはすごいものがあります。

話が長くなりましたが、この体全体を包まれる感覚は非常に感動的です。たかがセミの鳴き声で、と思われるでしょうが、これは経験した人でなければわからぬ感覚で、これに似た経験を強いてあげると、マーラーの第8交響曲を聞いたときだと思います。マーラーは「大宇宙が響き始める様子を想像して下さい」と書きましたが、この曲ではバンダ(客席後方などステージ外で演奏する奏者)とステージの演奏によって、音で包まれる感じがする部分があるのです。

このヒメハルゼミ、どこにでもいるセミではなくシイやカシの自然林が絶対条件ですので、多くの場合は神社の社叢(鎮守の森)にすんでいます。春日大社(春日山)、伊勢神宮、厳島神社(宮島)など・・・。

私は毎年この季節になると宮島に通い、蝉時雨を聞いています。体中の毛穴から老廃物が出ていって、清められるような気がするのです。「その光をもて我らが五感を高め」(マーラー第8交響曲の一節)。このセミの大合唱を聞いていてふと気がつくと涙が出そうになっています。

写真は羽化した翌日のヒメハルゼミ(左:オス、右:メス)。メスの方が大きく写っていますが、実際はメスの方が小さいです。これらの産地は宮島ではありません。

Hmale Hfemale

宮島で録音したヒメハルゼミの合唱(2008年7月。.wavファイル。モノラルに変換)はこちらをクリック。なかなか包み込まれる感覚を録音することは難しいです。

*録音や画像を無断で転載したり、コピーしたりすることを禁じます。

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Comments

コメントありがとうございます

》cicada_nanaさん

元々ステレオ録音です。それなりのオーディオセットで再生すればかなり再現できるのですが、マルチチャンネルの臨場感は録音から変えないとしょせんは疑似だと思います。

*コメント2つを1つに編集させていただきました。

》JGさん

>そのときの効果的な蝉の声は、ヒグラシだったのでしょうか。

よく覚えていないのですが、アブラゼミ、もしくはエゾゼミのような音だったかと・・・。しかし、このような効果音は後から付けることが多いようで、間違いも多いものです。

Posted by: Zikade(家主) | July 14, 2008 at 12:35 PM

「蝉時雨」はTV版の最後の2回くらい見ただけなので、車をひく場面は見損ないました。そのときの効果的な蝉の声は、ヒグラシだったのでしょうか。
私は、主人公が最終回で初恋の人と別れて一人になったとき、鳴いていたのがヒグラシだったのを覚えています。

舞台は米沢藩、現在の山形県あたりだから、クマゼミなどが出てくるわけはないとは思っていましたが(笑)。

Posted by: JG | July 13, 2008 at 07:21 PM

録音の際の臨場感は相当の機材がなければ難しいと思いますが、再生する分ですと・・・・・

もしかするとモノラル再生しないで、WAVEステレオ変換、更に5.1処理を施せばあの現場が再現できるかも知れないですね。ただしPCでは5.1再生は難しいかも知れませんが・・・
。ヒメハルゼミの臨場感再生の可能性が無いとも考えています。

Posted by: cicada_nana | July 13, 2008 at 05:26 PM

うーん、水野さんは、女らしすぎます。
原作はたぶん違う気がするのですが。
私の読んだ印象ですが。

確かに、木村さんは現代的すぎますけれど、
凜とした部分は、水野さんより圧倒的に勝っていると思いますが。

ちなみに、試写会を見た、藤沢さんの奥様だか、お嬢さんはとても気に入っていらっしゃったそうです。

Posted by: Cello | July 12, 2008 at 01:45 AM

こんばんは。

私はあの話しには水野さんのほうが合っていると思います。木村さんは現代的すぎる。個人的タイプは別ですが。

ヒメハルゼミの合唱はもう一度くらい聞きに行きたいと思っています。

Posted by: Zikade(家主) | July 12, 2008 at 12:32 AM

東京都内の某所にヒメハルゼミの合唱を聞きに行くのを毎年楽しみにしています。「蝉しぐれ」はテレビ、映画の両方を見て、本も読みました。NHKのドラマは原作のイメージに実に忠実に作られており、俳優陣の演技も素晴らしいと思います。実は家内の父親が山形師範学校で藤沢周平と同級生で、一緒に寮生活をしたそうです。家内の実家には藤沢周平の色紙や年賀状があります。

Posted by: tsushima | July 12, 2008 at 12:09 AM

でも、水野真紀より木村佳乃の方が良いと思います、はい。

個人の趣味か・・・・・・・

Posted by: Cello | July 11, 2008 at 02:08 PM

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