「鳴く虫セレクション」
大阪市立自然史博物館の初宿さんから新刊の「鳴く虫セレクション 音に聴く虫の世界」(大阪市立自然史博物館・大阪自然史センター編著/東海大学出版会・ISBN978-4-486-01815-5・2800円+税)が届きました(感謝!)。鳴く虫とは、バッタ、キリギリスなどの直翅類とセミのことです。

目次は多くて書ききれませんので、東海大学出版会のこちらのページをご覧いただくとして、セミ関連の項目を書き抜くと(番号は私がふった便宜的なもので本書のものではありません)、
1.セミの鳴き方と進化
2.アカエゾゼミを絶滅から救え:鳴く声による同定
3.原始日本のセミ:ヒメハルゼミの魅力
4.世界最大のセミ:テイオウゼミ
5.セミの系統進化と生物地理
6.セミの外来種:金沢のスジアカクマゼミ
7.セミの孵化を観察しよう
8.セミと人間生活との関係
9.芭蕉が詠んだセミはニイニイゼミか?
10.虫は、なぜ鳴くのか
11.鳴き方の仕組み
12.鳴き声の種類
13.鳴き声はどこで聞く:鳴く虫の耳
14.鳴き声の音響学:鳴き声の表わし方
15.鳴く虫の生活史
16.鳴く虫の発音と日周活動
となっていて、初宿さんの他元館長の宮武さんや森林総合研究所の大谷さんらによる分担になっています。文化史的なもの(8,9)から一般論、入門知識(1,10−16)、かなり新しい結果や少々マニアックなトピック的なもの(2−7)など幅広い読者を相手に飽きさせない内容だと思います。
2は大谷さんによるエゾゼミ類の鳴き声の聞き分けと自動判定装置開発へ向けてのお話し。3のヒメハルゼミについては私も同感でしたし、4のテイオウゼミでは初めて生きたテイオウゼミに出会う感激が伝わってきてウキウキします。9では現在ニイニイゼミと言われる芭蕉の立石寺における句の再考です。8では私もここで紹介しているセミグッズや漢方薬のことが書かれています。
まだ全部読みきっていないのですが、最近変更されたテイオウゼミの属名がまだMegapomponiaになっていません(←大したコトではない)。5で、広くユーラシア大陸に分布するというヤマチッチゼミCicadetta montanaが紹介されていますが、ヨーロッパに分布するものと韓国など大陸の東端に分布するものでは鳴き声が異るなどの報告もあるようで、注意が必要ではないかと思いました(それどころかヨーロッパ内ですら数種の集合をヤマチッチゼミと言っているようです)。チッチゼミの飛翔力も観察するかぎりあまりあるようには思えないのです。標本の作り方を紹介しているページでは直翅類だけでセミの標本の作り方がないのは残念です。最近広島大学博物館経由で私にセミの標本の作り方について照会があったので、一層そう思いました。
直翅類についてはとても紹介しきれませんが、基本的な方向は同じで、入門知識からトピックまで幅広い内容です。最近キリギリスが本州の東西で2種に分けられていることは知りませんでした。毎年冬になるとわが家のベランダで越冬しているツチイナゴ、6月ごろ周辺で盛んになくナキイナゴ、晩春の夜に鋭い音でなくクビキリギス、秋になると多数が鳴くマツムシなど、私にもなじみ深い鳴く虫が登場して、楽しいです。飼い方の解説もあります。
最後に特筆しておきたいのは、巻末に直翅類、セミ類日本産全種の正確な(命名年まで含む)学名や鳴き声のオノマトペ、生態的特徴などが表になっています。これは便利です。
かなり読みごたえのある本(332ページ)で、(やや高いけれども)セミ好きの人にかぎらず直翅類好きの方に御薦めです。両方お好きな方は恐らく必携の本になるでしょう。
購入は一般の書店もしくは、昆虫図書専門店「六本脚」で。

Comments
JGさん、コメントありがとうございます。
私が自分で調べた限り、エゾゼミとアカエゾゼミの周波数の山は変わりません。体が大きい分コエゾゼミ(キュウシュウエゾゼミも)より低いようです。しかし実際に聞くと地を這うような震えがあるのでエゾゼミが最も低く感じます。
Posted by: Zikade(家主) | December 03, 2008 at 07:35 PM
遅ればせながら、ご紹介の本をやっと入手しました。
休日にM市のジュンク堂で見つけ、すぐに購入しました。じっくり読むのはこれからですが、直翅関係では私の知人も執筆していました。
しまった、著者からサインをもらえばよかった・・・。
直翅の話題は、以前発行された大図鑑の内容とリンクしていますね。個人的には、種類別の飼育方法とイラストがすごく気に入りました。
セミの話題でいうと、エゾ、コエゾ、アカエゾの鳴き声識別がありましたね。私はエゾは低音、コエゾはやや高音、という印象で聞いていたつもりですが、周波数から想像するに、アカエゾがもっとも低音の傾向みたいですね。私はまだ生きたアカエゾを見たことがないので、今度注意して聞いてみます。
Posted by: JG | December 03, 2008 at 07:26 PM
や、これは興味深い本ですね。早速職場に出入りの本屋さんに注文出したいと思います(割引価格で購入できるので)。ただ、いくら本を買ってもなかなか読めないのが困ったことです。
私の勝手な想像ですが、ヒメハルゼミ、多摩ニュータウンを造成する以前の多摩丘陵には結構棲息していたのではないかとも思うのです。
また、芭蕉の「蝉」については、素人考えながら、エゾハルゼミではないかとの思いを捨て切れません。ヒグラシのように伸びる合唱の声は、新緑の季節に相応しく、深山にまとわりつくように聞こえ、それを「岩に染み入る」と表現しても決して不自然ではないように思うのです。アブラゼミ説を主張した斎藤茂吉は山形出身、エゾハルゼミの鳴き声を聞いたことがあると思うのですが……
Posted by: Paczki | November 14, 2008 at 10:31 PM
さっそくのご紹介、本当に感謝です。
ヤマチッチゼミには、そんな問題があるんですね。セミにしては、種レベルのとても広い分布域に、不自然な印象を覚えていました。
セミの標本の作り方は、たしかに載せるべきでしたね。まあ、さしあたって、同じシリーズに譲るってことで、ご容赦くださ~い(宣伝ですが・・・)。
http://www.press.tokai.ac.jp/bookdetail.jsp?isbn_code=ISBN978-4-486-01769-1
Posted by: 初宿 | November 14, 2008 at 05:33 PM