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April 23, 2010

「擬態の進化」ダーウィンも誤解した150年の謎を解く

大崎直太著「『擬態の進化』ダーウィンも誤解した150年の謎を解く」(海游舎、ISBN 978-4-905930-25-9、本体3000円+税、2009年)を読みました(目次はこちら)。

この本は昆虫、特にチョウの擬態についての研究を歴史的に書いたもので、ダーウィン以前の進化論から始まり、ダーウィン、ベイツ、ウォレスやミューラーについて、彼らの年譜、研究の概要、擬態についての考え方の進展を歴史的に述べるだけではなく、彼らの交流や調査探検の旅にまつわるエピソードなどを生き生きと描きながら、次第に著者自身の研究の紹介へと続きます。その間にも研究内容と直接関係のないエピソードも挿まれるなど、文章は緩急がつけられ一瞬たりとも読者を飽きさせません。さらに論文の作成、査読にまつわるエピソードなども多く、非常に生々しく研究の様子が語られます。最終章は著者の考える「良い研究」が述べられていて、参考になりますし考えさせられます。

単なる擬態の進化についての解説ではなく、擬態進化のしくみについて、かなり本質的な考え方の紹介がなされている本です。数理モデルの紹介も省くことなく書かれていて(しかも詳細に検討する関心がなければその部分は読み飛ばせるように配慮されている。実は私も読み飛ばしている)、「近代の進化論をあまり知らない」私のような素人から恐らくは専門の研究者にも十分読みごたえがあるようにできています。

ただしいくつか疑問点も感じました。たとえば先日広島虫の会総会で聞いた大澤 省三氏の話との関連(大澤氏は毒のない2種が似ることがあるということを指摘され、いわゆる並行進化のことを指摘されていました)で言うと、本書ではミューラー型擬態について、不味さの比較を述べていますが、不味さの比較は見方を変えれば美味しさの比較でもあるわけです。

擬態のコストに関してもカロチノイドとの関連が書かれていますが、確かにベイツ型擬態に用いられる警戒色は赤や黄色という‘ニンジン色’が多く、赤い斑紋を出すために体内のカロチノイドを回しているために短命になるということは分かるのですが、擬態色は本当に‘ニンジン色’ばかりなのでしょうか。そう言えば大澤氏は、擬態擬態というときに「人間が見て」似ていることを言っているが、昆虫や鳥が人間と同じように見ているのか分からないとおっしゃっていました。これは本書にも出ていますが、モンシロチョウは人間の目には性によらず同じ色に見えますが、紫外線域まで広げてみると見え方が違うことが知られています。

疑問点はありますが、それでも強くお薦めする本です。擬態というのは多くの人にとって魅力的なことです。そのような擬態の仕組み(理屈)に興味を持っている人には必読の書でしょう。ただし、本書は擬態例をたくさん紹介しているような本ではありません。チョウに限定されていて、甲虫類などの擬態は扱われていません。

このような面白い本、現在の私にとって意味のある本を紹介してくだささったのは、こちらのブログで本書の紹介記事を書かれたOhrwurmさんです。末筆ながら、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。なお、Ohrwurmさんのブログのこの本の紹介記事にはOhrwurmさんの疑問への著者自らのコメントも書かれていて興味深いです。

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Comments

はじめまして。思いがけず著者直々のコメントありがとうございます。緊張してしまいました。

1点目。分かりました。擬態と考えざるを得ない例は確実に存在していて、そのような例ではこの本で述べられていることが(恐らく)普遍的に成り立つということですね。

2点目も分かります。そのチョウの生息場所に非常に強い捕食圧になっている鳥の多くが不味いと感じればよいわけで、極端なことを言えば、当然そこにいない鳥が美味しいと思うか不味いと思うかは関係ないわけですね。確かによく考えてみると、仮に強い捕食圧になっている鳥が美味しいと思う2種がいても長く安定的に生息することはないでしょうから、「不味い」ことを考えれば十分ですね。

3点目も了解しました。擬態についてはまだまだ分からないことは多いと感じました。たとえば形を似させる擬態(たとえばアケビコノハ、コノハチョウ)にどのようなコストがあるのか、あるいはないのか興味深い問題のように思いました。

今後ともよろしくお願い致します。

Posted by: Zikade(家主) | April 26, 2010 at 09:50 AM

 疑問にお答えしたいと思います。書かれている疑問は3点あります。1点目は、人間の目から見て擬態と言っているものが、本当に擬態なのだろうか。鳥から見れば擬態には見えていないかも知れないし、並行進化、あるいは、収斂進化ということもあり得る、ということですね。確かに、個々の事例を詳細に調べれば、擬態と思われているものでも擬態でない場合もあり得ると思います。しかし、鳥を使った実験で、明らかに擬態と考えてよい事例も検証されています。本書は、そのような事例を念頭に置いて書きました。
 2点目は、味の問題です。不味いか美味いかは相対的な問題であり、状況においても変化します。しかし、それにしても、鳥が避けがちな不味い味というものがあり、その不味い味の種に似ることにより捕食率が低下して利益を得ている種の存在が検証されています。それが片利的ならベイツ型擬態種で、互恵的ならミューラー型擬態種です。
 3点目は、擬態のコストはカロチノイドだけか、ということですが、分かりません。本書の指摘で重要な点は、擬態にはコストがかかる、という指摘自体です。では、そのコストは何か、と考えた時に、警告色を発している赤、黄、橙、等の色に着目し、健康維持に使うべきカロチノイドを色素に流用することがコストではないかとしましたが、あくまでも検証されていない仮説の一つです。

Posted by: 大崎直太 | April 25, 2010 at 10:03 PM

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