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December 16, 2011

宮竹 貴久 著「恋するオスが進化する」

先月京都でお目にかかった際にOhrwurmさんから御紹介頂いた、宮竹 貴久 著「恋するオスが進化する」(メディアファクトリー新書037:ISBN978-4-8401-4276-2:740円+税 2011年10月31日発行)を読みました。

現在の生物学では、いきものが自分の種の維持、繁栄のために行動するという考えは否定されていて、オスはオスの、メスはメスのことしか考えていない(正確にはアタマで「考えて」行動しているわけではないが)、しかもオス(メス)にとって隣のオス(メス)は敵で、自分の遺伝子を残すことしか考えていない・・・ということになっています。

この本はまぁ、ありとあらゆる(と感じるほど多くの)、オス同士、メス同士のタタカイや作戦、オスとメスの駆け引きとそれらが引き起こす進化の様子が紹介されています。

自分よりも後にそのメスと交尾するであろうオスの精子を殺し、(究極の)浮気防止に交尾相手のメスの寿命を縮めるべく、精液に毒を入れておくキイロショウジョウバエの例など驚くべき「暴走」の数々はかつての「自分の種の維持、繁栄のため」等という甘っちょろい説がふっとんでしまうものばかりです。

私のようにもともと生物学者でもなんでもないのに、最近になって生物学的な話に頭を突っ込み始めた人間にとっては、その昔高校時代に習った古く現在否定されているような知識を改めるためにも、このような最新の知識を仕入れておくことは重要です。その意味でも本書は非常に役に立ちました。

第2章にコオロギには生まれつきあまり鳴かないオスがいて、寄生バエが鳴き声に反応して鳴くオスに近づいて産卵しているすきに、こっそりと鳴いて寄生されたオスに寄ってきたメスと交尾するという例が出ています。つい先日の日本セミの会談話会の折、最近セミの寄生バエを精力的に研究しているH氏にこの話をしたところ、セミの場合寄生はメスにも見られるとのことでした。

ちなみに、第3章に出てくるオオツノコクヌストモドキの死に真似の話は以前数理生物学の研究集会で聞いたことがあります。そこでは数理モデルを考えてこの死に真似の生態を解析していたと記憶しています。たしか、この本の著者と同じ大学の研究グループだったと思います。

第7章に出てくる性の出現をコントロールする共生細菌ボルバキアも最近耳にすることがあるのですが、どういう代物か分かったように思います。セミと共生細菌の話も日本セミの会談話会(の後の飲み会)でクマゼミを研究しているM氏から聞いたばかりでした。

第6章で無核精子が浮気防止のための「つめもの」としてメスに送り込まれる話が出ています。セミの精子にも大きさに2つの型があることが知られています(加藤正世博士が「蟬の生物学」に書き、最近は日本セミの会会報に毛利秀雄氏のグループが詳述)が、セミの場合はどちらも有核だそうです。どうも受精には大きい方の精子が使われるようですが、小さい方の有核精子が何のためにあるのか、興味があります。

本書には「メスが一度しか交尾しない」のは例外的(原文は「珍しい」)と書かれています。セミはその例外的な交尾様式と信じられていますし、オスも鳴いてメスが飛んでくるのを待つわけで、どうもオスもメスもこの本に書かれた凄まじいばかりの競争・闘争・駆け引き合戦からみると消極的(「草食系」)に見えてなりません。私達はセミの繁殖・生態について大きな見落としをしていないでしょうか?そんなことを考えさせられました。

それはともかく、この本は一般の方にもお薦めです。各章末に「ポイント」としてその章の重要な点が箇条書きになっているのは便利です。ただし、引用文献は付けて欲しかったと思います。時々読み返してみようと思っています。

*このように面白く役立つ本を紹介して下さったOhrwurmさんには感謝!

----------------以下2012.1.10追記--------------------
「第7回生物数学の理論とその応用」(京都大学数理解析研2010.11)の講究録をみたら、上記オオツノコクヌストモドキの死に真似の研究スタッフにこの本の著者が参加していらっしゃることを知りました。私がこの研究の発表を初めて聞いたのは、さらにその数年前だったと思います。その時の発表では、ある1頭のオスが死に真似をする時間間隔を一定に設定されていたと記憶していますが、私はさらに「ある自然な設定」に関し質問をしたのですが、あまりその「設定」は考えていらっしゃらないようでした。ちょうど私がセミの羽化と交尾の数理モデルを考えている時で、私はその自分の論文で交尾の時間間隔を「その」設定にしたのでした。

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