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September 05, 2013

セミとはどんな虫なのか

セミとはどんな虫なのか

税所 康正

 

 日本で暮している人でセミを知らない人はほとんどいないでしょう。夏になればセミが鳴くものと思っている人は多いですし、ちょっとでも遅ければインターネット上で「今年はセミが鳴かない。異常では?」という書き込みが増えます。それほどなじみ深い昆虫でありながら、一般にその生態は案外知られていないようです。そこでこれからセミに親しもうと言う方々の一助となるよう、セミについてまとめてみました。

 日本国内には35種(+1亜種)のセミがいます。米国には170種以上いるようですが、面積が約25倍であることを考えると日本にセミが多いことが分かります。昔はセミが夏休みの子供たちの格好の遊び相手であり、男の子はセミ採りに興じたものでしたが、聞くところによると「セミ採り」は日本固有の「文化」であるらしく、海外では子供がセミ採りをすることはないそうです。これも日本のセミが豊かであるからかもしれません。たしかに、ヨーロッパにセミは少なく、英国はたったの1種。それも決してロンドンの街中で鳴くようなことはありません。ギリシャからイタリア、南仏を経てスペインにかけての地中海沿岸を中心に何種類かのセミが分布していて、ファーブルがセミの観察を「昆虫記」に書いているのをお読みになった方も多いのではないでしょうか。米国やヨーロッパには日本と共通の種は分布しないので、これらの国の人はツクツクボウシのリズミカルな鳴き声もヒグラシのカナカナカナという涼しげな美声も知りません。

 セミは鳴く虫ですが、鳴くのはオスの成虫だけです。セミが鳴くのは決して暇つぶしでも楽しいからでもなく、鳴き声でメスを呼び寄せている、現代風に言えば「ナンパ」に他なりません。種ごとに決まった歌で同種のメスに呼びかけ、メスは気に入ったオスのところに飛んでいきます。オスの腹部には発音膜があり、それを振動させ、空洞になっている腹部で共鳴させてあの大きな音を出しています。一方メスの腹部は卵が詰まっていて、交尾後のメスは枯れ枝や樹皮に産卵管を差し込み、卵を産みつけます。ちなみにオスは体力と運次第で複数の相手と交尾するのに対し、メスはたった1回だけと言われています。オス・メスの数はほぼ同数ですから、相手を取っ換え引っ換えする「肉食系男子」がいる一方で、一生相手に恵まれないオスもいることになります。「肉食系」と書きましたが、実際の食べ物は木の汁だけ。細長いストロー状の口を木に垂直に押し当てて樹液を吸います。この口を武器にすることはありませんが、空腹のセミを指にとまらせると・・・まれに木の枝と勘違いして刺されることもありますから御用心。

 卵はセミの種類によってその年の秋か翌年の梅雨時に孵化し、幼虫は地上に降り、地下にもぐって木の根に取りつきます。その後根から汁を吸いながら数回脱皮を繰り返し、何年間か地中で暮します。しばしば「セミの一生は7年」と言われていますが、実は飼育が難しく、ほとんどの種類ではよく分かっていません。アブラゼミは孵化まで約1年、その後2〜6年の地中生活を過すようですし、ニイニイゼミはその年の秋に孵化し、3〜4年地中で過すことが分かっています。栄養状態や環境によって変化し、同じ年に産み落とされた卵でも必ずしも同じ年に成虫になるとは限らないようです。この点、米国にいる周期ゼミ(周期=一生の長さによって13年ゼミ、17年ゼミという、それぞれ3、4種からなる2つのグループに分けられる)のセミたちは特異で、同じ産地でセミが発生するのは13年または17年ごとに限られ、残りの年には全く出現しないという、すべての個体の完全シンクロの発生パターンを持っています。この周期ゼミでは同じ年に産み付けられた卵はすべて同じ年に地上に出て成虫になるわけです。

 セミはトンボやバッタ類と同様に不完全変態、すなわち幼虫から蛹を経ずにいきなり成虫になります。この脱皮を羽化といいます。羽化が近づいた幼虫は地表に小さな穴をあけて外を窺い、ある夕暮れに穴から這い出し、木に登り羽化をします。オスがメスよりも1週間程度早く羽化する傾向があります。夏休みに観察された方もいらっしゃるでしょうが、ガラス細工のような美しさに満ちた瞬間です。しかしセミたちにとっては最も危険な時で、殻からの脱出に失敗することもありますし、アリに襲われて餌食になることもしばしばです。翅はすぐに延びて数時間で飛べるようになりますが、体が十分に固まらないために、一般に羽化後満足に鳴けるようになるまで数日を要します。このことからも「セミは羽化して1週間で死ぬ」というのは誤りであることが分かります。恐らく採集して数日で死んでしまう体験から来る誤解でしょう。現在では鳥やカマキリなどの外敵に襲われなければ2、3週間は生き、1か月以上生きることも珍しくないと考えられています。しかし残念ながら、仮に歌うことも飛ぶこともせず体力を温存しても、冬を越すほどの長生きは無理です。

 セミは夏の昆虫と思われています。確かに多くのセミが梅雨明け前後から出現しますが、実は国内に限っても夏に出るとは限りません。最も早いのは沖繩県にいるイワサキクサゼミという、小指の第一関節程度の日本最小のセミで、宮古島では一月に出現して鳴き出します。このセミは、木ではなくサトウキビやススキなどのイネ科の植物などにとまって鳴きます。

 九州以北でも四月にはセミが鳴き始めていることを知る人は少ないでしょう。ハルゼミは関東以南にいるセミですが、松林にしか棲めないのでなかなか気づきません。五月晴れの松林に行くと大合唱に出会うことがあります。北海道でも五月になればエゾハルゼミが鳴き出します。この頃に北海道だけではなく本州や四国、九州でも標高1000mを超える広葉樹林帯に行けば、このセミの合唱が聞けるでしょう。これらのセミは梅雨明け前に姿を消します。

 一方遅く出るセミでは八月下旬にピークになるツクツクボウシが有名ですが、さらに遅いセミとして長崎県対馬に生息するチョウセンケナガニイニイがいます。このセミはなんと十月に入ってから出現します。このセミを観察するには寒さ対策でセーターを着る必要がありますが、セミ自身も全身に毛が生えていて防寒仕様。まるで縫いぐるみのようないでたちです。沖縄県石垣島などにいるツクツクボウシの仲間、イワサキゼミのピークも十月、十一月ですが、驚くことに年を越して聞くこともあるということです。このように、国内でセミが全くいない月はないことになります。

 東京ではビル街でもミンミンゼミが鳴き、このセミの鳴き声ミンミン・・・というのがセミの鳴き声の象徴にさえなっています。コマーシャルやドラマでも夏を表現する時にこのセミの鳴き声が好んで使われますが、実は西日本ではちょっと山に入らないと聞けないセミです。大阪の街中でミンミンゼミが鳴くということはないのです。代わって大阪で多いのがクマゼミで、午前中を中心に街はシャーシャーという、けたたましい大合唱に包まれます。大阪でクマゼミが増えたのはヒートアイランド現象によると言われています。最近東京周辺でもクマゼミを聞いたという報告が多く、地球温暖化絡みでクマゼミの分布北進がマスコミを騒がすこともありますが、最近の研究では、温暖化が始まる以前から十分にクマゼミが棲める温度であったことが分かっていて、分布の拡大は街路樹の植栽による人為的な幼虫の移動などによるのではないかと考えられています。

 昨今セミを怖がる人も増えているようですが、セミは武器をもたない平和な昆虫です。これからセミに少しでも関心を持たれ、彼らの歌声に耳を傾けられたなら、今まで気づかなかった景色が見えるようになるかもしれません。

      (初出:2013「遠い夏のゴッホ」プログラム2013.9一部加筆
*無断で転載、複製、配布を禁じます。

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